CD Essay

好きなアルバムを1枚取り上げて語れるだけ語るブログ

スラップおじさんことMarcus Millerの去年のアルバム『Afrodeezia』が物凄く新しくて最高だった

アフロディジア (初回限定盤)(DVD付)

 

みんな大好き、スラップおじさん

ベーシストが唯一目立てる手法、スラップ。弦をはじくことでベチンって音を出す奏法だ。初期のレッチリとかずっとやってた。基本的にうるさいからやりすぎると目立ちたがり屋のギタリストがキレることでもお馴染みだ。

今回はそのスラップの名手、Marcus Millerが2016年に出したアルバム『Afrodeezia』がすこぶる良かったので語りたいと思う。

 

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ベースに唯一与えられた目立ち方、スラップ

マーカス・ミラー - Wikipedia

とりあえずバチンってやっとけば目立つ。ステージの端に引き籠もってるベーシストが唯一目立つ歓喜の瞬間だ。スラップしてる時くらい見てあげてほしい。まあでもあんまり出しゃばるとうざいよね。試奏の時とかスラップしかしない人とかいるよね。うるさいからほどほどにしてね。

あまり前に出てこないけど良い仕事してる、っていうのがベースの良さみたいなところはあるのだが、どの世界にもキチガイはいる。今回のMarcus Miller常にスラップしているキチガイだ。目立ちたがり屋すぎる。むしろなんでベース選んだ。

ベース上手いやつスラップしがち、というのはある。まあ実は簡単だけど奥が深い技法だ。初心者でも1ヶ月あればできるようになるけど綺麗に鳴らすということを考えると本当に一生付き合う覚悟が必要になる。卓越したスラップ技術ってのはそれだけで武器だ。そしてマーカス・ミラーのスラップは本当に上手い。スラップに関しては敵無しじゃなかろうか。ベースの凄い人なんてごろごろいるけど、この人のスラップは本当に気持ちのいい音が鳴る。ヌケの良い音でありながらしっかりと低音で支える。ファンキーでありながらメロディアスだ。テクニックに走りすぎない良さがある。

たまに音がデカすぎてうるさい時もある。でももマーカス・ミラーってそういうもんだし。音が小さくてスラップしてないマーカス・ミラーとかマーカス・ミラーじゃない。スラップしてなんぼ。ちなみに、まだマーカス・ミラーに慣れてない人はマーカス・ミラーがサポートで弾いてる作品から入ると良いと思う。幾分かうるさくない。

 

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ワールドミュージックスムーズジャズを合わせた快作

さて、今回のアルバムは非常に面白い。かなりワールドミュージック感がある。そういうコンセプトで作ったのだろうが、にしてもかなりワールドミュージックだ。なんの楽器なのかパッと聴いただけじゃ分からないこともある。そもそも何語なんだろうこれ。

パーカッションがかなり鳴ってる。最近パーカッションがいるバンドが増えてるけど、単純にリズムバリエーションが増えて面白い。パーカッションもだが、アコースティック楽器が多いマーカス・ミラーエレキベースなのだが、アコギ系の弦楽器も含めアコースティック楽器がかなり多く使われている。

ちなみに、最初の動画で使われた四角い変な楽器はSintirというらしい。西アフリカの楽器だそうだ。3弦でボディが革で覆われている。一応その地域ではベースの役目を担っている楽器なのだそうな。管理人は初めてみた。

このアコースティック楽器で加えられたワールドミュージック要素がかなり多国籍で面白い。単純に南米のハッピーな感じだけじゃなくてアフリカ系の音階も使っているし中近東の影響も伺える。そうした多国籍にごちゃ混ぜにしつつ、マーカス・ミラーのベースはエレキでしっかりと支えている。アコースティック楽器でワールドミュージックの印象を増しつつ、スムーズジャズとかフュージョンでまとめ上げている感じだ。

で、このワールド感とマーカス・ミラーのベースが物凄く相性がいい。まあもともとマーカス・ミラーがファンキーでブラックなビートを得意としているから、ブラックなワールドミュージックと相性がいいというのも頷けるのだけど。にしても物凄く相性がいい。バキッとしたスラップが見事に抜けてくるし面白いスケール感で飽きが来ない。ベースソロを取っている間は後ろの演奏隊が新鮮なことをしていて面白い。

マーカス・ミラーが上手いのはいつも通り。相変わらずバチバチしてる。ベースの音もデカい。だけどいつも通りのマーカス・ミラーではない。物凄く挑戦的で面白い。

 

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(3人でこの演奏は充実しすぎでしょ…すごっ…)

 

新時代のフュージョン

かなり挑戦的でありながらマーカス・ミラーらしい安心感のある作品だ。そして単純に全体のクオリティが恐ろしく高いバランス感覚がやっぱり良い。あと各楽器のミックスが本当に素晴らしい。ベースがやかましいけど、その印象だけに収まらない。もちろんベースが一番音が大きいのだが、他の楽器が分離して綺麗に聞こえてくる。意識的にベース以外を聴こうとした時に後ろの演奏隊が綺麗に抜けて聴こえる。こんなおもしろいフレーズを弾いてたのかっていうのが手に取るように分かって素晴らしい。技アリのミックスだ。

マーカス・ミラーは名前しか知らない」「ベースがうるさくて苦手」という人も試しに聴いてみて欲しい。惜しくもグラミー賞の受賞は逃したが、これは間違いなく名盤だ。