CD Essay

好きなアルバムを1枚取り上げて語れるだけ語るブログ

Jamiroquai の新譜『Automaton』はどこがどう音楽的に素晴らしいのか誰もちゃんと書いてくれないから語らせてもらう

オートマトン

 

7年ぶり、遂に来た

Automaton - Spotify

待った。ほんと待ったぜ。

前作『Rock Dust Light Star』から実に7年。アシッドジャズの伝説にして、今もなお頂点に君臨する唯一無二のバンド。Jamiroquai の待望の新作『Automaton』が2017年3月31日に発売された。ようやく語れるとこまで聴き込んだ。語らせて貰おう。

 


Jamiroquai - Automaton

 

異常なリズムへの拘りと美しき世界

ジャミロクワイ - Wikipedia

いまさらジャミロクワイの説明は不要だろう。1992年のデビューから実に25年間、常に最高のバンドで居続けているバンドである。リーダーは JK こと Jason Kay であり、全ての曲の作曲に携わっている。

JK のソロみたいになってるがバンドだ。最近はメンバーも固定されている。JKがカリスマ的に目立ちすぎているだけだ。まあミスチルとかサザンみたいなイメージだ。あとの歴史とかディスコグラフィーとかはWikipediaを読んだ方が早い。英語版にはメンバーの変遷も乗ってる。

 

このブログにできることは彼らを音楽的に解説することだ。まずは彼らのこれまでの基本的な音楽性についておさらいしよう。

このバンドの持ち味はリズムと世界観だ。

JK のリズム感は恐ろしいものがある。あの超有名曲 『Virtual Insanity』ですら暴れまくってる。というか基本的に歌うのが難しすぎる。あの演奏にこの歌が乗るのか、というところが多すぎる。メロディの付け方がジャズのアドリブやスキャットに近いのだ。というか実際にアドリブが乗っているし。もう歌という名のリズムである。カラオケで歌おうとして恥ずかしい思いをした人は少なくないはず。ちなみに、管理人は恥ずかしい思いをした。

演奏メンバーもすこぶる上手い。そしてその演奏のほとんどがリズムを構築するためにされている印象だ。リズムの要であるベースとドラムが本当に気持ちいい。

ベースはいわゆるクラシックなファンクに近い、リズムに疾走感を与える気持ちいいベースである。スラップの使い所が本当に上手い。曲をドライブさせるということがここまで上手い人も珍しい。ゴーストノートの入れ方が最高である。

ドラムも同様にハネたリズムで構築されている。リズム隊だけ聞いたら真っ黒なファンクビートである。フィルインは少なめで、やはりリズムに特化している印象だ。でも上手いのがびしびし伝わってくる、ハイハット捌きとか芸術的だ。

バンドでリズムを構築するのはベースとドラムだが、ジャミロクワイに関してギターもリズムの構築をしている。曲中はカッティングで全く同じ音をずっと弾いていることもある。メロディを弾いて曲展開には関与する、なんてことをせずにリズムの構築をしているのだ。たまにパーカッションみたいなことしかしていないことだってある。そこでワウを踏んだ時なんて完全にリズム楽器である。

また、これらの楽器は曲中であまりフレーズを変えない。Aメロとサビの2パターンをずっと曲中繰り返していることの方が多い。にも関わらずずっと聴いてられるのだから上手いなんてもんじゃない。フレーズが良すぎるというのもあるし、リズムを楽しむというその一点に絞った結果でもある。

 

世界観を構築して曲の顔を見せる

対してキーボードは大きくフレーズを変えている。ベースが常に同じものを弾いているので曲の根幹となるコードの進行はキーボードが行っている事が多い。キーボードが曲の展開を支配しているとも言える。

それもあってキーボードが曲の雰囲気を大きく支配している。キーボードが宇宙っぽい音を使っているアルバムのタイトルがスペースカウボーイになるくらいにはジャミロクワイの世界観を作っている。リズムを他に全て任せることでリズム以外の全てを担っているような状態だ。重荷すぎる気がするがそれができているのだからこのキーボードが技量が飛び抜けていることがわかる。

この盤石な布陣を敷いた上で、サビになったら覚えやすいメロディを聞かせるというのがジャミロクワイの鉄板にして最高のパターンだ。あれだけ自由奔放に歌っていた JK がサビでは一気に分かりやすいフレーズで曲の顔を見せる。気持ちのいいリズムを楽しみながら世界観に浸っていたところで強烈なメロディによって忘れられない曲になるのだ。

改めて思うのだが、物凄く高度なことをやっている。これが基本スタイルにできるというのは類稀な技術と豊富な経験がないとできないはずだ。

 


Jamiroquai - Cloud 9

 

言うなればコンピューターカウボーイ

さて、問題の今作についてである。

まず小ネタを言うと、アルバムのロゴは映画のブレードランナーの書体である。今年続編のブレードランナー2049が公開される。管理人も大好きな超名作映画である。まだ観てないならこの機会に観て欲しい。これを知ってから聴くと雰囲気がぴったりな感じがすると思う。

 

今作のテーマは言うなればコンピューターカウボーイだ。

全体的にエレクトロ要素が増した。シンセやプログラミングをふんだんに使っており、世界観の構築をかなり丁寧に行っている。そのための音使いから流行の音楽らしさ、みたいなものを感じる。

エレクトロとは言うがもちろん前作の『Rock Dust Light Star』とは違う。前作にあったEDM感が今作ではすっぽり抜けている。2010年といえばEDMが一番盛り上がっていた時期であり、キーボードに使われている音がEDMで使われている音だった。サビの前の盛り上げ方やシンバルの鳴り方もEDMっぽかった。これに対して今作はむしろエレクトロだ。Underworldとかの世界観に近い。EDMは本当に終わったんだというのを感じた。

今回の世界観はコンピューター感を感じる。未来っぽさとも言える。ブレードランナーと言うのが一番正確でイメージが伝わりやすい気がする。ちょっと怪しげな音使いにエフェクトがかかっていて独特な世界観がある。夢で見た未来の風景をぼんやりと思い出している感じがする。

 

明らかに時代を意識した上で解像度の上がった世界

また声の扱いもかなり今の音楽っぽい試みが成されている。

近年の作品はバックボーカルを呼んで重厚なコーラスをかけたりボーカルにエフェクトをかけたりで、声に個性を持たせることがほとんどだ。声も楽器のひとつとして音をいじっているのだ。なんならバックボーカルにどんなコーラスをやらせるかが腕の見せ所みたいなところもある。

今作ではあの JK のキチガイのようなリズム感にしっかり乗るバックボーカルがいる。聴きながらバックボーカルが上手すぎて引いた。サビで重厚な和音コーラスを響かせて曲のコードを担ったりもしている。楽器でコードをやるのではなく声でコードを作って進行するのは最近流行りだした手法である。またメインボーカルにハーモナイザーを使って電子的に声の和音を乗せていたりもしている。

こうした今っぽさを加えたことでかなり洗練されている。流行りに乗ったという見方もできるが、新しい手法を取り入れることで世界観をさらに際立たせているというのが正確だろう。和音の声でコードを展開することで非現実感が増しているし、メロディに電子的な和音を付けるのはコンピューターっぽさにぴったりだ。今っぽさを加えたことで今までより解像度が上がり、ボヤけていた絵がクッキリして見やすくなったという印象だ。

しかし、そうした洗練さのために目立つテクニックがかなり減ったのも事実だ。変態的な奏法が聴きたかった人からすると残念かもしれない。ただ、節々に常軌を逸した上手さが伝わってくるフレーズが紛れ込んでいるのでそうしたところを楽しむのも良いと思う。

こうした新しい手法を取り入れた上で、アルバムを通して聴くとこのコンピューター感が徐々に薄れ、代わりにだんだんと生楽器の割合が増えているように聞こえる。徐々に新しい先端的な音を減らしていくことで我々に馴染みのある音楽になっていくのだ。コンピューターから肉体への回帰みたいなメッセージもあるのだろうか。おかげで後半に行くほど聴き馴染みのある音が増えていき、Jamiroquaiらしさみたいなのを取り戻していくようだ。非常に面白い試みだ。

もちろん決して Jamiroquai としての軸がブレたなんてことはない。エレクトロ要素が増えた序盤でも他のメンバーの演奏は一切変わらない。間違いなくカウボーイ達であり、我々の知ってる Jamiroquai だ。演奏は相変わらず上手いし気持ちのいいリズムである。なんなら前作や前々作よりもよっぽど Jamiroquai っぽい。我々が25年前に聞いたあの Jamiroquai が作った作品なのが伝わってくるのだ。

 


Jamiroquai - Cloud 9 (Fred Falke Remix)

 

25年のキャリアが持つ格の違い

世界にも日本にも Jamiroquai のフォロワーと呼ばれているアーティストは多数いる。そうしたアーティストが個々で成功しているのも知っている。しかし、今作ではっきりしてしまった。本家は格が違う。ファンには申し訳ないがこれはもう抗いようのない事実だ。こんなバンドがいくつもあったら世の中の音楽関連の問題なんてとっくに解決してる。ここまで我々の聴きたかった音楽を作りながら挑戦的で新鮮な作品はない。恐ろしく作り込まれている。

リズムの気持ちよさに独特な世界観、そして覚えやすいメロディ。彼らの持ち味を完璧に活かし、そのうえで新たな世界を見せて新鮮さまで演出する。キャリアの長いバンドにありがちな「いつも通り」ではない。「いつも通りだけど新鮮」なのだ。

『Dynamite』以降のいまいちヒットしきらなかった空気を一変させている。

文句なしの超名盤。2017年の最重要アルバムだ。

 

Automaton

Automaton