CD Essay

好きなアルバムを1枚取り上げて語れるだけ語るブログ

え?Chick Coreaと上原ひろみのピアノアルバム『Duet』があったの、みんな知ってるよね?

Duet

 

もしかして知られてない…?

以前友人達と飲みに行った時のことだ。ピアノが好きだと言って「なんか良いのない?」と聞かれた。色々と勧めてみたのだが、みんなやっぱり上原ひろみは知ってるわけだ。流石にね、日本が世界に誇るべき天才だもんね。

しかし、ピアノだけの作品が良いと言われた。そしたらこれじゃない?と言って管理人が話題に出したのが上原ひろみChick Coreaのピアノアルバム、『Duet』である。2007年の9月にブルーノートであったライブをそのままCDにしたアルバムだ。個人的には超名盤だと思っているのだが意外にもこのアルバムの知名度は高くないらしい。

そういえばこのアルバム凄く好きだったなと思いだして聴き直してやっぱり凄く好きだった。せっかくの機会だから記事にしておこう。

 

 

ピアノ、だけ。

上原ひろみ - Wikipedia

チック・コリア - Wikipedia

この2人の説明は今更いらないだろう。Spainを書いたってだけでもう超偉大なChick Corea大先生と日本で最もハイレベルな音楽をしている上原ひろみだ。上原ひろみって本物の天才だからな。そのうち単体で書くけど。本物だぞ。

今作のリリースは2008年。ライブがあったのは2007年の9月だ。もうすぐ10年になる。10年前の上原ひろみってどんな人だったかというと、まだ期待の若手だった。この頃は『Time Control』を出した頃。上原ひろみHiromi's Sonicbloomってバンドを組んでた。上原ひろみはキーボードでエレキギターも加入してドラムもガッツリ叩いてと、かなりフュージョンっぽい曲だった。上原ひろみのキャリアの中でもかなりフュージョン度高め。ちなみに個人的にこのアルバム大好き。David Fiuczynskiってギタリストなんだが、まじで凄く良い。ワミーバー(トレモロアーム)の使い方が上手すぎる。ずっと音程が怪しいんだけど外れない、凄い。

ジャズピアニストとしてはわりと異色のアルバムを出したところではある。そろそろジャズピアニストとしてもちゃんとしているんだぞっていうのが欲しいところではある。というところでチック・コリアとピアノ2台だけでライブをしようということだ。これ、なかなか面白いことだ。チック・コリアはこの時点で既に神様な人。Spainを書いたってだけで神様だから。その神様がここまでの若手、しかもジャズ畑の人なのかどうかも怪しい人とコラボしようというのがなかなか面白いことだ。

ただチック・コリア上原ひろみに惹かれるというのはなんとなく分かる。この人ももともとキーボードとかのフュージョンに対する理解が深い人だ。Spainがそうだし。そしてこの時点での上原ひろみも全く同じである。ふたりともフュージョン界で活躍してるけどアコースティックピアノで実力の原点を見せたいという思いは共通していたと言える。

少し不思議ではあるが納得する組み合わせでもある。

 

あー、こんな事してたんだ、ってなるやつ

 

チック・コリア上原ひろみの聴き分けで倍楽しい

さて、まず言わなければならないのが、このアルバムはヘッドホンだと倍楽しい

左がチック・コリア、右が上原ひろみ。ここの聴き分けが物凄く楽しい。もちろんスピーカーでリラックスしてコーヒーを啜りながら聴いても素晴らしく良いのだが、個人的にはヘッドホンでどちらが何を弾いているのかを聴き分けても楽しいと思う。一度聴いてるって人も是非。

このアルバムはふたりの年齢差やキャリアがそのまま現れていて非常に面白い。端的に言うと遊び回る女の子とそれを眺めているお父さんだ。このセッションを引っ張ってるのは明らかに上原ひろみなのだが、チック・コリアが暴走しすぎないように上手くコントロールしている感じ。

そもそもピアノ2台ってのは難しい。音がどうしたって似ているし、どっちもが音域が広い。そして目立つ。バンドで表すと分かるだろうが、ヴォーカルが唄ってる後ろでギターソロ弾かれたらうるさいだろ。そこにトランペットがソロでも取ろうもんならブチ切れ案件だ。中音域というのは飽和してはいけない。あまりに聴くところが多いと混乱しかしない。

その点でピアノ2台というのは片方がソロを取ったらもう片方はなんとなく大人しくしているしかない。しかし、あまりに大人しいと面白くない。隙を突いて、混乱しないギリギリを攻めていきたいものなのだ。2台のハーモニーを上手く使いたい。

その点でこのアルバムは優秀である。流石の2人だ。混乱しないギリギリ、人間の理解が及ぶギリギリのところを上手く突いている。

上原ひろみはずっと天真爛漫、元気いっぱいだ。飛び跳ねるように鍵盤の上で遊び回っている。エネルギーに溢れすぎている。子供ってずっと走り回ってるよなあって思い出したりする。走り回り方が速すぎてボールを追い掛け回してる子犬みたいな感じもする。とにかく速い。元気。そして明るい。

で、それを見ていたチック・コリアお父さんがちょっと影響されて遊びに加わる様が非常に良い上原ひろみほど速くはないのだが要所を綺麗に突いて聞かせるフレーズを作っていく。あまり脱線しすぎないように上手く動く。完全に保護者。でもこの保護者は凄く良いお父さんだ。基本は子供の好き勝手にさせておいて好き勝手に動きやすいようにどんどん変えていくってのは素晴らしい。

あと、お互いの反応速度がやっぱり半端じゃない。お互いが弾くものに即座に合わせてハモったりする能力は毎度驚く。リハもやってるだろうけどここまで自由にやってるってことは恐らくお互いの手の内を明かしただけのリハだったと思う。ということはここはカンでやったのか、みたいなのがある。凄い。達人芸ってやつだ。

 

地上波でやったやつ、楽しそう

 

リラックスしても良し、ピアノの達人芸を楽しんでも良し

このアルバムの後、上原ひろみスタンリー・クラークバンドに参加して大成功。後にグラミー賞を受賞している。そしてAnthony JacksonSimon Phillipsでのトリオ・プロジェクトを始めてビルボード一位になったわけだ。今作はその片鱗を見せる素晴らしい作品だ。

友人は作業用BGMにしているらしい。ピアノしかないからそれも良いと思う。でも注意深く聴くのも楽しい。こういうのを名盤と呼ぶんだろうな

ちなみに、会場がブルーノート東京というのもあって、食器をカチャカチャさせる音も入ってる。あのやけに美味しいやつ。幸せなんだよね。このカチャカチャがうるさいと文句を言う人もいるだろうが、個人的には往年のジャズアルバムっぽくて好き。ジャズのライブ盤には昔からよく入ってる音だ。このどこかアットホームな感じが好き。そういうテンションで聴いてねって感じもする。

ちなみにDVDだとお互いの演奏が見えるから鍵盤をどう弾いているか見れる。まあ見た所でよく分からないのだが非常に楽しい。すごーいって笑いながら見るのがおすすめ。

是非楽しんで欲しい。