英語はよく分からないから、Kendrick Lamarの『To Pimp A Butterfly』の音についてだけ語ろう
グラミー賞5冠が帰還予告
Kendrick Lamar が新作を出すらしい。4月14日、タイトルは『ALBUM*』だそうだ。でも前作のTo Pimp A Butterflyの時に1週間くらい早く急にリリースしてパニックになった過去があるから相変わらず目を離せない。
そう。『To Pimp a Butterfly』だ。2015年発売でグラミー賞は11部門ノミネートとかいう偉業を成し遂げた歴史に残るヒップホップの超名盤だ。ちなみに最多はキングオブポップことMichael Jacksonだからもうこれを超えるのは無理だと考えてもらって構わない。
新作のリリース前にこの歴史的アルバムの何が凄いのかを音楽的に書こう。歌詞については他のサイトに譲る。「ケンドリック・ラマーは歌詞だろ!」というお叱りは分かるが、管理人より英語に堪能な人がしっかり書いてる。それを読んだほうがよっぽど良いと思う。適材適所だ。
ということで、音について語らせてもらおう。
*4/11追記 アルバムの正式タイトルが『DAMN.』と発表されました。
我々がイメージする「ヒップホップ」ではない
もうケンドリック・ラマーはこれに尽きる。ヒップホップだけどヒップホップじゃない。
日本でヒップホップって言った場合どんなイメージだろうか。「両親に感謝」「俺たち最高の友達」「俺の彼女まじ一生愛するって決めた」「悪そうなやつはだいたい友達」まあ、こんな感じだろう。最近はフリースタイルダンジョンっていう相手のことを韻を踏んでディスりまくる大会も流行ってる。 悪そうなやつはだいたい友達なのに感謝しまくってるあたりに日本の国民性を感じなくもない。
そう、韻を踏むというのが大事だ。ダジャレじゃない。ちなみに同じ言葉を繰り返すのがダジャレ、母音だけ同じでメッセージ性を持たせるのが韻を踏むってことだ。「アルミ缶の上にあるみかん」はダジャレだが、韻を踏むと「君がアルミ缶のジュース買う時間」みたいになる。
いわゆるヒップホップというのはだいたいこういう文化の上で成り立っている。エミネムだって白人なのにエグいライムでディスるのがかっこいいって売れたわけだ。
そしてこうしたことに総じて言えるのは煽りに煽って盛り上げるということだ。
大げさな打ち込みビートで分かりやすく煽る。基本はずっと同じコード進行でなんかちょっと面白いこと言ってサビだけメロディをつける。そのメロディもラップで言うからぼんやりしていることが多いが、そうした展開の妙で魅せることが多い。
ケンドリック・ラマーにはそれがない。一切ない。
Kendrick Lamar - i (Official Video)
演奏が上手い。
ヒップホップで演奏が上手いってのがまずあまり起こらない話だ。基本はサンプリングと呼ばれる手法で今まである曲から拝借したフレーズを鳴らすか打ち込みかだ。つまりステージにはDJがいるだけというのが定説である。
でもケンドリック・ラマーは演奏が上手い。そう演奏しているのだ。ドラムまで全部。
もちろんケンドリック・ラマーが演奏しているのではなく、ゲストのミュージシャンを呼んでやってる。それにヒップホップで演奏するのが初めての革新的なスタイルであるというわけでもない。まあ珍しいのは間違いないが。ヒップホップの主流ではないという程度だ。
しかしこの演奏がまあ上手い。上手いなんてもんじゃない。超一流が揃ってる。Snarky PuppyのドラムRobert 'Sput' SearightだとかRobert GlasperだとかThundercatだとかLalah Hathawayだとか。ラップ陣だとDr.DreとSnoop Dogがいる。プロデューサーにはFlying Lotus、Pharrell Williams、Terrace Martinもいる。今まで何度か「ゲストが豪華」っていう記事を書いていたけど比較にならない。トップアーティストしかいない。なんだこれ。プレイヤーも一流、ゲストラッパーも一流、プロデューサーも一流。それを束ねてるKendrick Lamarってどういう交友関係してるんだよ。コミュニケーションオバケかよ。怖っ。
メンバーを見て察した人もいるだろうか。ほとんどジャズの人だ。で、やってる曲も最近のジャズだ。完全にヒップホップの演奏ではない。めちゃくちゃジャズしてる。まあそもそもジャズは上手くなきゃできないのに加えてアルバムのためにメンバーを集める文化があるからゲストに参加させやすい。とは言え、本当にほとんどがジャズ出身のメンバーというのは時代性を感じる。
特にプロデューサーのテラス・マーティンの影響は大きい感じがする。テラス・マーティンがこの後に出すアルバム『Velvet Portraits』なんかは弾いてるメンバーが似てるのもあってそっくり感がすごい。そのままケンドリック・ラマーに歌わせればケンドリック・ラマーの曲になりそうなのもある。逆にケンドリック・ラマーの声を抜いたらそのままテラス・マーティンの曲になりそうなのも多い。
そうしたジャズっぽい新しい音楽を取り入れた上で、ケンドリック・ラマーらしいセンセーショナルなラップを乗せる。新しい上に高品質。圧倒的に良いのだ。
だから新作が楽しみ
あと一週間お預けだが、これは期待せざるを得ないだろう。今回の先行リリース『HUMBLE.』も聴き込むと面白い工夫がたくさん隠されている。典型的なヒップホップらしい曲だがハードだ。ここまでガシッと決めてるのも珍しい。『The Heart Part 4』はTo Pimp A Butteflyっぽかっただけに不思議だ。どうなるんだろう。ここから結論なんてないぞ、完全にただ楽しみにしているだけだ。
まあ、とりあえず4月14日に分かるだろう。楽しみだ。