CD Essay

好きなアルバムを1枚取り上げて語れるだけ語るブログ

fox capture plan はカルテットの劇伴バンドで終わりにするには惜しいぞ

WALL

 

カルテット、終わってしまったね

WALL - Spotify

あまり観てる人がいないのが悲しいとこだが、TBS系列でやってた『カルテット』が終わってしまった。一週間の楽しみが減っていって悲しい。

さて、その中で軽快な劇伴を担当していたのが fox capture plan である。日本発のアノトリオである。正直このバンドをカルテットの劇伴作ってたというだけで終わらしてしまうのは非常に惜しいので筆を執らせてもらう次第だ。

今回は彼らの出世作『WALL』から今注目の日本人ジャズグループを紐解く。

 


fox capture plan / 疾走する閃光

 

現代版ジャズロック

fox capture plan - Wikipedia

はっきり言おう。ピアノのジャズトリオなんてのは掃いて捨てるほどいる。掃いて捨てられなかったのが Bill Evans だったりするわけで、とんでもなくハイレベルを求められる戦場である。

さて、その戦場で近年、日本人アーティストが世界で好評を得ている。ひとつは上原ひろみ。もうひとつが今回の fox capture plan である。

上の動画はそうでもないが、下の動画のコメント欄を見てみて欲しい。全員見事に英語である。ここだけ文化圏が違う。実は日本でも火が付いてきているが海外でも火が付いている。これまでのピアノトリオとは違う、新しさに惹かれているのである。

では何が新しいかと言うと、ジャンルである。

乱暴な言い方をすると彼らがしてるのはジャズ風味ロックである。ほぼほぼロックだ。ロックをピアノトリオでやっているだけだ。そこにエッセンスとしてジャズっぽい要素が含まれている。ベースとドラムなんてジャズっぽいフレーズを弾いていることの方が少ない。ほとんどロック。

ちなみにウィキペディアを見たらインストゥルメンタルバンドって書いてあった。良い感じにジャンルの特定を避けた書きかたである。ずるいけど賢い。

 


fox capture plan / Elementary Stream

 

ジャズは分かりにくい、ロックは分かりやすい

ジャズというのは慣れが必要なジャンルである。スイングの拍も独特だし静かだし音はスカスカだ。凄いソロを弾いていても初めて聴く人には凄さが分からないというのがほとんどである。凄さが分かるところまで慣れないと楽しめない。

その点ロックってのは分かりやすい。8ビートなんてもう超簡単だ。やる気になったらドラム叩いたことない人でも1時間でできるようになる。分かりやすいビートである。

この分かりやすいビートで分かりやすくおしゃれな事をしているのが fox capture plan である。ジャズの難しいことはしない。奇抜すぎるソロもしない。曲の展開もロックと同じである。ジャズを極限まで分かりやすく分解したのが fox capture plan なのである。

本人達もそれが分かっている。往年の90年代ロックのカバーアルバムなんてことまでしている。下の動画はそのカバーアルバムに収録されているものだ。Underworld の超名曲 Born Slippy である。洋楽に興味があったら間違いなく通っている曲をうまい具合にピアノトリオとして消化している。

狙っている層はジャズを聴きまくって耳が肥えているおじさんではない。今までロックしか聴いてこなかったけど、ピアノのおしゃれな感じに触れたいティーンだ。

だが、これだけだとそこらのユーチューバーと変わらなくなってしまう。いるからな、こういう名曲をピアノアレンジしましたって人。このバンドが違うのは確かな実力に加えて音使いの巧みさである。ピアノに平気でエフェクト書けていたり電子音を突っ込んだり。ベースがわりとやりたい放題している。この辺がロック出身っぽさを感じるところでもある。

 


fox capture plan / Born Slippy

 

墓場のジャズを明るくしてくれ

ジャズというジャンルは色々聞いてきた人間が最後に行き着く墓場のような場所だ。どうしたって古典が良しとされる風潮はあるし、なんならレコードで聴かなければ、みたいな風潮もある。ジャズ雑誌には新しいアーティストの話なんて対して出てこないし、それよりレコードとかスピーカーの話の方がよく出てくる。

そんな加齢臭が漂うジャンルだが、本当は面白いジャンルなのだ。本当に技術がなければできないし実は物凄くノれるしソロの応酬はスリリングだ。最近若手の有望株が次々と現れいるし、こんなに面白いジャンルはない。

今こそジャズに陽の光を見せる時だ。

日本からこの墓場を救ってくれるのを期待している。

 

WALL

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