今の時代に『The Epic』をやることに意味がある、Kamasi Washinton
世界を湧かせまくってるテナーサックス
Large Jazz Ensembleというジャンルがあることはご存知だろうか。グラミー賞にもBest Large Jazz Ensemble Albumという部門がある。要するに大規模なジャズバンドでの演奏だ。吹奏楽とかはここに入る。
このジャンルで今世界を湧かせまくってるテナーサックス奏者がいる。Kamasi Washingtonである。と言っても、彼のサックスの技術が湧かせているのではない。アルバムの質が高すぎて話題になっているのだ。
今回は2015年発売のカマシ・ワシントンの話題のメジャーデビュー作『The Epic』について語ろう。
Kamasi Washington - 'Re Run Home'
この人、経歴がまず凄い
ずっと思ってるんだけど、パパイヤ鈴木に似てませんか。髪とか髭以外もちょっと似てませんか。管理人だけですか。そうですか。このニセパパイヤ鈴木、Flying LotusにKendrick Lamar、Thundercatという今話題の人達と共演歴がありつつHarvey MasonやStanley Clarkeというジャズの偉人達とも共演している。普通どっちかでしょ。若手からも重鎮からも評価が高いってそれはつまり本物じゃないか。
かつヒップホップやアフロキューバンジャズ、ファンクでの演奏経験もある。どんなジャンルだろうと吹いているのだ。サックスは確かに多くのジャンルと親和性があるけど、どんなジャンルでも大丈夫ってわけじゃないはず。それでもまあ上手くやってるんだから凄い。
そうやって色んなジャンルでやって経験を積んで、オーケストラの曲を書いて録音したのが今作である。製作総指揮はフライング・ロータスらしい。言われてみれば曲の世界観とか似てるところがある。
1ヶ月かけてこのアルバムのための曲のレコーディングをしている。といってもセッション方式だ。名プレイヤーを一箇所に集めて、その場で全員で音を出したのをそのまま収録して終わり。1ヶ月のうちの良いテイクを全部集めたのが今作というわけだ。でも名プレイヤーを集めて1ヶ月使ってるんだからかなり気合の入ったレコーディングとも言える。そこから選りすぐりの曲を全部入れたらデビューアルバムにして3枚組170分という脅威の超作になっている。でも全然ダレない170分だ。
Kamasi Washington - 'Change of the Guard'
間違いなくラージジャズなのだが、何かが違う
さて、カマシがどんな音楽を作りあげたのかだが。
間違いなくラージジャズだ。どのジャンルに属するかと言われたら誰もがラージジャズだと答えるはずだ。なのにこれまでのラージジャズとは違う。経験したことのないラージジャズだ。構成もバンドの編成もラージジャズなのに出て来る音がラージジャズじゃない。少なくとも吹奏楽部のやってた演奏ではない、もっと遥かに前衛的だ。もう数が多くて編成が大きいということ以外にラージジャズらしさがない。
そこまで考えてから管理人は困った。説明する言葉がない。
スピリチュアルジャズというジャンルがある。合唱が入ってストリングスが鳴りブラックで怪しい世界観を作る。これに近いというのはある。でもアフロキューバンジャズっぽくもある。かと思ったら普通にラージジャズっぽい部分もする。なんだこれ。
ロバート・グラスパー達に比べれば全然ジャズだ。あいつらはジャズじゃない。ただ他に合う単語がないし、本人達もジャズって言ってるから、「じゃあジャズってことで」みたいな感じになってる。でもカマシ・ワシントンはそうじゃない。分かりやすくジャズの音しか鳴ってないのにジャズだと言い切るのはちょっと戸惑う。今までのジャズにいそうなのに。
この違和感の正体はスケールの大きさとリズムだろう。
合唱とストリングスの使い方が本当に上手い。これによってスケールが大きく荘厳な世界観を描いている。このあまりに荘厳な感じがラージジャズらしくない気はする。そしてスピリチュアルジャズにしてはノれる曲が多すぎる。パーカッションはバコバコ鳴るしドラムもダンサブルだ。あまりジャズっぽくないドラムだ。この2つが相まって純粋に聴いててアガる。
この両者の匙加減が絶妙でクオリティの高さが尋常じゃない。ノレルのに荘厳。めっちゃ楽しいのに神聖。凄い。
Kamasi Washington's 'The Epic' in Concert
経歴が成長に繋がっているアーティスト
彼の経歴を改めて見て少し納得する。ジャズの本流にしっかりと足を付けながら物凄く色々なことをしている。この経歴がそのままアルバムになったかのようだ。メジャーデビュー1枚目にしてこのクオリティは末恐ろしい。
一見クロスオーバーじゃないのにしっかり他の文化を取り入れてる。にも関わらずしっかりジャズだ。おしゃれにスマートにキメるという風潮が強い今の時代に、こうしてしっかりとジャズをしているのは好感触だ。
3枚組170分でこんなにも充実した作品は珍しい。2枚組ですらダレるアルバムが多いのに。それだけでも十分おすすめするに値する。それに加えてこれまでの経歴が成長として見える人というのは安心だし楽しみだ。
是非聴いていほしい1枚である。