Bill Lauranceの『Live at Union Chapel』が現代ジャズの良いとこ取りしてて素敵
ただのキーボーディストじゃない
GroundUP Musicというレーベルが大人気だというのは以前も記事にした。
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今回はそのキーボード、Bill Lauranceについてだ。や、待って。またGroundUP Musicかって思わないで。あの、違うの。本当に凄い人だから。別にCD EssayはGroundUP Musicの回し者とかじゃないから。回し者だったら!なんか敬語とか!使うから!
回し者かと疑われる程度にはGroundUP Musicのアーティストを紹介することが多いのだが、安心して欲しい。間違いなく凄い名盤しか紹介してない。今回のビル・ローレンスもそうだ。間違いなく凄い人だ。どのくらい凄いって今度単独で来日公演がある。単独だ。これはつまり単独でできるくらいにはソロのキャリアが充実してるってことだ。
そして、基本的に良いと思わないと記事を書かないCD Essayが記事にする。良いアーティストなのは保証しよう。今回は彼の最新のライブ盤『Live at Union Chapel』で彼の魅力を紹介しよう。
Bill Laurance - Union Chapel Trailer
教養に溢れていて上品
ビル・ローレンスは前述したようにSnarky Puppyのキーボーディストだ。Snarky Puppyについては既に記事があるから読んで。若干リライトしたから読んで。
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ちなみにBill Lauranceだ。スペルがちょっとややこしい。Bill Lawrenceっていうギターのメーカーがあるけど、スペルが違う。もちろん関係はない。ちなみにUK出身らしいよ。
さて、ビル・ローレンス自身のソロキャリアなのだが、これがなかなかに華々しい。UKの誇るトリップポップMorcheebaやEddie Roberts率いるジャズファンクバンドthe New Mastersounds、そして以前紹介したCorinne Bailey Raeなどはレギュラーとしてライブでサポートしている。14歳の時からプロとして活動してたらしい。14歳の時なんかまだ鬼ごっこしてた気がする。中学になって本気で鬼ごっこすんの超楽しい!とか言ってた気がする。
若い時から色々な人と演奏していたからだろうか、ビル・ローレンスのフレーズはかなり多岐に渡る。すごくジャズピアノらしい演奏ももちろんできるが、端々からクラシックっぽさが聞こえてきたり、かと思えばファンクっぽいフレーズが聞こえてきたり。エスニックなフレーズも結構な頻度で飛び出してくるし、エレクトロなトーンも出てくる。凄い博識。でもジャズとクラシックが根幹にあるような感じがするからどことなく上品な雰囲気になるのも個人的に好きなポイントだ。
ピアノだけに限らずシンセもキーボードも、ボコーダーまでいける。あと最近流行りのSeaboardも使いこなしてる。ビブラートとかがかけられるシンセね。知らない人は調べてみると楽しいよ。そういえば『La La Land』でも使ってた。ビル・ローレンスは実はマルチに演奏できるらしく、普通に歌も唄えるらしい。
この教養に溢れたジャンルレスの感じと新しい機材や音にも敏感な感じが相まって、ビル・ローレンスの曲は非常に新しい。今までに3枚のソロアルバムを出しているのだがどれもただのピアニストの作品では決してない。ファーストから聴き直して進化を辿るも良し、最新作から戻っていって彼の根幹を探るも良し。クオリティがどれも高いからとても楽しい。
Bill Laurance - Swift (Live at Union Chapel)
流行りのSeaboard使ってるやつ。楽しい。
クロスオーバージャズの完成形を見た
Bill Laurance (keyboards)
Michael League (electric and upright bass)
Robert Sput Searight (drums)
メンバーはいつも通りのGroundUP Musicのメンバーだ。要となるキーボード、ベース、ドラムのトリオは全員がSnarky Puppyのメンバーだ。安定感バツグンな百戦錬磨の布陣である。マイケル・リーグがアップライトベースを弾いているのは珍しいかも。想像の三倍は上手いから安心して大丈夫。
ほんとこのトリオだけで素晴らしい。物凄く上手い。他の2人のフレーズに対してよくそんなフレーズを合わせるよなっていう驚きに満ちた演奏を3人ともがしている。あまりテクニックをひけらかさないけど、それでも鬼のように上手いのが伝わってくる。いつも通りなんだけど、このドラムは何が起きてるのかよく分からなくて笑っちゃうんだよね。
あと、もう当然のようにトリオ以外も上手い。パーカッションはドラムのロバート・スパット・シーライトとGhost Noteっていう打楽器ユニットを組んでいるFelix Higginbottom。ちなみにこのユニットめっちゃ面白いからおすすめ。あとフレンチホルンのKatie Christie。この2人がかなり良い仕事をしている。金管がこのフレンチホルンしかいないとは思えない。もちろんストリングスも良いけどもうキリがないから割愛。
スナーキーパピーを知っている人なら慣れっこだろうが、ソロの尺は勘でやってる。映像をチェックすると分かるのだが毎回誰かがキューを出している。もちろんリハをしているだろうし演奏も初めてのはずはないから、なんとなくどこで行くかは分かっているのだろうけど。にしても明らかに正確には決めてない感じはジャズっぽくて楽しいし異常に上手いからこそって感じがして良い。
CD Essayでもロバート・グラスパーやKris Bowersなど有望なピアニストを勧めているが、ビル・ローレンスはその中でも非常にジャンルが広い。ストリングスがいるからクラシックよりにも見えるのだが、シンセベースを使ったり、パーカッションがいたりと編成からジャンルレスだ。ストリングスが鳴る伴奏に対してSeaboardでシンセソロを取ったりもする。
テクニックとしてもビル・ローレンスは上手い。リズムがトリッキーなのもあってか右手と左手が全然違うリズムで弾いてることがある。脳味噌2つある系の演奏。っていうかあれかな、右脳と左脳が独立しちゃってんのかな。知らんけど。どう考えても同時に処理できないと思うんだけど。
あと、これはドラムもやってるけど、通称人力ディレイ。同じフレーズをだんだん弱くすることでディレイをかけているっぽく効かせるテクニック。最近流行りだしたテクニックだけどリズム感の鬼でないと無理だ。下手に挑戦するとリズムが死ぬ。
物凄い技術力で地盤を固めた上で色んなジャンルをクロスオーバーさせつつ最近の手法をこれでもかと詰め込んでスマートに決める。現代のジャズアーティストが目指してるやつだ。それをライブで完成させたのがビル・ローレンスだ。
Bill Laurance - Ready Wednesday (Union Chapel)
これがアンコール。素晴らしい。
ライブならではの楽しみもある
DVD付きの輸入盤が本当におすすめ。上手すぎてよくわからないんだけど、弾いてるのを間近で見れる。すごく楽しい。輸入盤の方が安いしデジタルダウンロードで済ませちゃダメ。
本当に素晴らしいアルバムだ。全員上手いがやっぱりビル・ローレンス自身が本当に良い。アンコールでビル・ローレンスがピアノの独奏をするのだが、それを聴いている時のマイケルリーグの満足そうな感じとか凄く共感する。あの独奏ほんと良い。こういう表情が見れるからDVDって楽しいんだよね。
本当におすすめの一枚だ。気に入った人は今度の来日公演も是非行ってみて欲しい。