CD Essay

好きなアルバムを1枚取り上げて語れるだけ語るブログ

Ibrahim Maaloufは元々凄いのに物理的に唯一無二だってことは『Kalthoum』を聴くとわかるよ

Kalthoum

 

名前だけで英語圏じゃないって分かる

Kalthoum by Ibrahim Maalouf on Spotify

非常に異国感が溢れている名前だ。これでイブラヒム・マーロフと読む。ちなみに正確な発音はマールーフに近い。どうしてマーロフになっちゃうんだろうね。ちょっと調べたらすぐ発音記号も出てるくのに。レコード会社の中の人って外国語に弱すぎないか。まあもうマーロフで有名になっちゃってるからマーロフで進めるけど。

イブラヒム・マーロフはレバノン出身だ。中東の国だ。北と東はシリアに囲まれてる。南はイスラエル。西は地中海だから逃げ場もない。どんなに世界情勢に疎くてもこれはヤバイ場所だって勘付く場所。おまけに10年くらい前まで内戦してた。最近はだいぶ安定してるけどシリアから難民が押し寄せてて死にそう。ちなみにイブラヒム・マーロフ自身はフランスで活動しててフランスとレバノン二重国籍二重国籍の正しい使い方って感じする。いきなり戦争に巻き込まれるとかはない、はず。

話を戻そう。このイブラヒム・マーロフのトランペットが物凄く良い。中東感に溢れてて唯一無二の感じが素晴らしい。2016年の作品『Kalthoum』から彼の良さを語ろう。

 

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オフィシャルで全部アップされてる、素晴らしい

 

四分音トランペット…?ってなんだ…?

Ibrahim Maalouf - Wikipedia (英語版)

ここ最近異国系のジャズが流行りだ。もうこれは流行りって言い切っちゃう。ピアノはティグラン・ハマシャンシャイ・マエストロ。ベースにアヴィシャイ・コーエン。そしてトランペットがこの人、イブラヒム・マーロフ。みんな名前が一癖ある。

ちょっと怪しい雰囲気あまり馴染みのないメロディを駆使した上でジャズに乗せてくる。確かな技術と解釈の新鮮さが相まって大人気だ。ポップス界隈でもワールドミュージックの流行りは来ているのだが、パーカッション叩きまくってるだけでワールドミュージック感を出そうとしてるものはある。流行に乗ろうとしたけどちゃんとした知識がないからとりあえず音だけ入れたって感じだ。悪いことじゃないが少し浅はかに聞こえる。

それに対してこの人達は当然だが根っから異国の人だ。ナチュラルに異国感が溢れ出している。ということでトリオやカルテットくらいの小規模でも異国感がビシビシ伝わってくる。音楽理論としてきっちり異国感を理解した上で活用しているというのは強い。

さて、イブラヒム・マーロフである。この人の何が脅威って四分音が出せることだ。

四分音について説明しよう。端的に言うと音程が危ない音だ。ピアノの白鍵あるじゃん。ドとレ。このドとレの音程の間隔を1として全音って呼んでる。そうするとド#(=レ♭)は1/2だけ音程が違うということだ。これが半音。で、あれば四分音は…?1/4、半音のさらに半分だ。つまりドとド#の間の音である。もちろんピアノにそんな鍵はない。というか基本的にそんな音は西洋音楽では出てこない。12個の半音で1オクターブって概念の楽器で作ってるのだから存在しない。

しかし世界は広いもんでこの四分音を使った曲というのがあるわけ。例えばフレットが存在しない弦楽器でなら四分音は出せる。ドとド#の間を抑えればいい。ちなみに日本の伝統音楽にも四分音はあるぞ。津軽三味線とか結構出てくる。

そしてこの四分音をトランペットでやってるのが今回のイブラヒム・マーロフである。もちろん特注のトランペットだ。制作協力はイブラヒム・マーロフのお父さん。普通は3本の管で音を出すのだが彼のトランペットは管が4本ある。世界にひとつしかないからイブラヒム・マーロフ以外にこの音を出せるトランペッターはいない。物理的に唯一無二。最強。

 

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四分音の使い方が凄まじい

さて、イブラヒム・マーロフが化物だというのがわかったところで、今回のアルバムの話に移ろう。今回のアルバムのクレジットは下記だ。

Ibrahim Maalouf (trumpet)

Larry Grenadier (double bass)

Clarence Penn (drums)

Mark Turner (saxophone)

Frank Woeste (piano)

同窓会かよ。どっかで見たことありそうな布陣だ。各々が別にどっかで共演してたと思う。

ベースのラリー・グレナディアダブルベース(=コントラバスウッドベース)の名手、マーク・ターナーはポスト・ジョシュア・レッドマンって言われてる。フランク・ヴェスターはピアノとフェンダー・ローズを使いこなしてる。今作はピアノだけだが。クラレンス・ペンは日本が誇る天才、小曽根真のドラマーをしてた。そして各々がイブラヒム・マーロフのようなエキゾチックなジャズの演奏経験がある。つまり盤石の布陣というわけだ。

もちろんサックスとピアノは四分音が出ない。つまりテーマとなるメロディには四分音は出てこない。四分音体験はトランペットソロだ。これが文句なく良い。四分音って基本的に他の楽器には出せないので失敗するとただの音痴になる。そもそもスケールを外れるっていうのは上手くやらないと音痴にしかならない。カエルの歌でド#を弾くっていうのはプレイヤーからしたら恐怖しかない。本当に上手に使わないと大事故まっしぐら。

四分音なんてほぼ確実に大事故になる。どうやったら西洋楽器で上手く突っ込めるのか分からない。いや、飛び道具的に入れておくと展開のフックになるというのはある。あとは経過音として使うとか。けど、この人の四分音の使い方はそうじゃない。完全にメロディに入れている。音階が完全にアラブ系のそれ。なのに他の楽器は普通の西洋楽器。エキゾチックな雰囲気を残しつつ気持ち悪さは与えない。すごいとしか言いようがない。

あと純粋な曲の展開も良い。四分音が無くても全然楽しく聴ける。トランペットはソロ執ってなんぼみたいなとこはあるが、ソロ執ってない部分、要は休んでるとこも十分良い。他のメンバーが充実してるというのもあるが、純粋に書かれた曲が良い。凄い。

 

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今回のアルバムには入ってない曲だけどあまりに良いから載せちゃう

 

唯一神と言わざるを得ない

四分音だけのキワモノというわけでもなくクラシックとかもちゃんと学んで普通のトランペットでもめっちゃ賞獲ってる。純粋にただのトランペットも神業なのに四分音が加わって完全に唯一神というわけだ。漫画の主人公でももうちょい落ち着いた設定だと思うんだよね。

彼の第二の故郷、フランスではめっちゃ売れてるらしい。勝手なイメージだけどフランス人こういうの好きそうだよね。ちなみに同時期に出した『Red & Black Light』はエレキのアプローチ、今回の記事の『Kalthoum』はアコースティックのアプローチだ。『Kalthoum』の方がイブラヒム・マーロフの四分音トランペットに焦点が当たってて、イブラヒム・マーロフが初めてならこっちの方が耳障りが良いと思ったのでこちらにした。でも『Red & Black Light』も純粋に素晴らしい作品なので聴いてみて欲しい。

恐ろしい才能だ。是非聴いてみてほしい。

 

Kalthoum

Kalthoum

  • イブラヒム・マーロフ
  • ジャズ
  • ¥1600

 

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