Kendrick Lamarは『DAMN.』で本気で頂点を獲りに来ている
音楽系ライター、多忙につき瀕死寸前
遂にリリースされた。4月14日である。昼ぐらいだったらしい。なんか2曲聴けないとかもあったらしい。まあ、今は問題ないはずだから大丈夫だ。
もちろん世界的に大騒ぎしている。音楽系のメディアが大々的に取り上げるのは当然なのだが、そうなると一刻も早くレビューを出す必要がある。グローバル世界において速さは正義だ。しかし曲の解明をそんな早くするなんて単純に大変だ。
ということでどのサイトも「第一印象」という言葉を使ってレビューを書いているのだが、既にその第一印象のレビュー件数が尋常じゃない。NPRってサイト内だけで8人のライターが記事出してる。1つのサイト内で8つも同じことについて書いてるって冷静じゃないぞ。
そもそもコーチェラ開幕前日である。忙しい時期になんてことするんだ。そしてケンドリック・ラマーはコーチェラのヘッドライナーだ。ふざけんなよ聴くしかないじゃんか。ライターさん寝れなくなってるでしょ。かわいそうだわ。
お気づきだろうがCD Essayは遅い。すまんな。これが仕事じゃないんだ。文句を言うなら金をくれ。でも、もちろんCD Essayも取り上げる。だって予想通り管理人が好きなアルバムだったから。相変わらず歌詞に言及はしない。他の英語ができる人に任せる。よろしく頼んだ。
ということで、『DAMN.』の何が良いのかを語ろう。
本気で頂点を獲りに来た
ケンドリック・ラマーは既に凄いということを前作『To Pimp A Butterfly』で見せつけている。マイケル・ジャクソンに次ぐグラミー11部門ノミネートはどう考えても尋常じゃない。世の中のありとあらゆるメディアから賞賛の嵐。既に全てを手に入れた男だ。「オレ最強だから」って言って許されちゃうやつ。
しかし、ケンドリック・ラマーは満足してなかった。
前作で唯一成し得なかったのはグラミー賞主要部門の受賞だ。いやもう良いだろって思うけどね。グラミー賞にそこまで価値ないって。既にグラミー賞より難しいことやってるって。でも、どうやらケンドリック・ラマーは獲れなかったのがめちゃくちゃ悔しいらしい。
ということで呼ばれたのがU2だ。グラミー賞の歴代最多受賞グループである。
いやいや、張り切り過ぎだろ。グラミー賞獲るの上手いやつを味方に付けたろ!っていう理論は間違いなく正解だけども。でもだからって世界で一番グラミー賞獲ってるモンスターバンドを呼ぶかね。同人誌欲しいから500万持ってきたけど足りる?って言ってるみたいだ。ちなみにライブの史上最多動員数もU2である。1日で9万7000人集客したらしい。もう意味が分からない。ついでに言うと2位と3位もU2である。冗談抜きに現役最強。 本物の生きる伝説だ。
それを呼ぶってなんなんだよケンドリック・ラマーって。まだ29歳だぞ。木村文乃とか長澤まさみとか手越祐也と同い年だぞ。それがなんでこんなビッグネームを引き連れて、しかも主役やってんだよ。せめて逆だろ。手越祐也の主演作の脇役に渡辺謙が出てるようなもんだぞ。おかしいだろ。渡辺謙もなんでオッケーなんだよ。ケンドリック・ラマーすごいからか。
しかもU2に加えてRihannaもいる。なんだそれ。この2人をゲストで呼ぶのにいくら掛かるんだよ。若手のジャズバンドBadBadNotGoodも参加している。すげえ。
しかし、これだけ豪華なゲストがいるにも関わらず曲ではゲストをバッサリ切ってる。U2との曲は中盤にならないと一切U2が出てこない。しかもU2らしい曲なのかと言われると微妙なぐらいU2らしさを出していない。かと言ってU2以外に同じことができるかと言うと疑問だ。ギリギリU2。こんな贅沢なU2の使い方は他にない。超大御所がいる前でこの振る舞い。神経が図太すぎる。
ただ、彼が本気で頂点を獲りに来たということは分かる。本気だ。
今作のケンドリック・ラマー、メロウ(当社比)
もちろんあくまでケンドリック・ラマーにしては、ということではあるのだが。でもメロウだ。ケンドリック・ラマーとメロウ。どうしたって結びつかない単語だ。でも音もメロディも柔らかい。子供でもできたのか。と、思うけど恐らくこれが彼の考えたポップさなのだと思う。
彼の声と言うのは非常に目立つ。尖っている。歌詞も独特だ。これだけで何もしなくても凄く刺さる。英語が理解できる人なら尚の事刺さる。戦闘力53万って感じがする。
以前までの作品ではそうした尖った部分をフィーチャーしていたことが多かった。あえてギラつかせることで彼のアイデンティティを世界に発信していたとも言える。今回はその先を行ったのではないだろうか。もうギラついた彼は十分に発信できている。そこで演奏はギラつかせず聴きやすい作品を多くしたのではないだろうか。
そう考えると先行配信された作品が『HUMBLE.』であった理由も見えてくる。この曲はアルバムの中でも最も攻撃的である。これまでのケンドリック・ラマーよりも攻撃的だ。物凄い勢いで刺してくる。曲の入りからインパクトがありすぎる。このインパクトで全部持っていける。あらかじめこのインパクトを配信しておくことでアルバムを通して来た時のインパクトがさらに高まるという狙いだ。アルバムが中盤を過ぎたところでこのイントロが流れた時は本当に痺れた。
だからこそ、メロディのあるポップ要素を増やしたのではないだろうか。出せば売れるのは間違いないが結局みなに良いと言ってもらえないと評価は得られない。
そして、ジャズに寄らなくなった。もちろん演奏者はジャズ出身者が多いのだが、曲調はジャズではない。前作はどう聴いてもジャズみたいなトラックもあったが今作はしっかりヒップホップだ。
恐らく日本での一般的な評価は高くならない。むしろ前作と比べると期待外れって言われそう。だって日本人は英語分かんないもん。ヒップホップは歌詞を考えなきゃいけない。前作は歌詞を一切考えなくても伴奏が良いから楽しめたが、今作は徹底的にヒップホップをしていて歌詞に重点が置かれている。日本人には知識としてわからないということが起きる。本物の言葉の壁だ。
でも、この方針はグラミー賞を意識しての事だと思う。グラミー賞は部門別の表彰だ。該当するジャンルが無ければノミネートすらされない。しっかりと今どのジャンルをしているのかを明らかにすることで賞を獲りに行っている。そんなことしなくてもラップ部門はほとんど敵無しだと思うのだが、今作は本気で狙いに行っているのは間違いない。
しかしメロウであるにも関わらず個性はむしろ前作以上に感じる。不思議なことにアルバム全体としての統一感は増している。わかりやすいヒップホップに近づいたことでケンドリック・ラマーの声がよりリアルに聞こえるためだろう。
分かっちゃいたけど名盤だわ
総括としては文句の付けようのない傑作である。ヒップホップに残る名盤である。こんだけやったらグラミー賞も獲るだろう。
ジャケットも特徴的だ。人物の写真の大写しというのはアイドルのジャケットでよく使われるが、どう観てももっと殺伐としている。前作以上に彼の個性を示しているということなのではないかと感じた。ケンドリック・ラマー自身への回帰なのではないかと。世界観の構築が凄まじい。徹底的にケンドリック・ラマーをしている。他の何者でもない強烈な個性だ。
いやでもほんと凄えわ…こいつどんだけ才能で固まってんだよ…
コーチェラの3日目、もちろん配信される。月曜日だけど。管理人は見れない気がする。見れる人は是非見て欲しい。
どうでも良いことだがブログ史上初めての二枚目となる記事だ。以前アーティストについて記事を書いてあるのだから多少は短くできるかと思ったが、結局3000字を超えた。いつもより多い。仕方ない。