CD Essay

好きなアルバムを1枚取り上げて語れるだけ語るブログ

10年以上前に流行った Corinne Bailey Rae が去年『The Heart Speaks in Whispers』っていうの出したの、知ってる?

ザ・ハート・スピークス・イン・ウィスパーズ

 

一世を風靡した歌姫の新作

 

Heart Speaks In Whispers - Spotify

Corinne Bailey Rae (コリーヌ・ベイリー・レイ) という名前に聞き覚えはあるだろうか。11年前のデビュー作に収録された『Put Your Records On』で一躍スターになった現代R&Bの歌姫である。

今回はそんな彼女の2016年発売の3rdアルバム、『The Heart Speaks in Whispersの話である。 

 


Corinne Bailey Rae - Put Your Records On

 

カフェに現れた癒やしの歌姫

コリーヌ・ベイリー・レイ - Wikipedia

話は11年前、2006年まで遡る。
イギリス出身の新人の女性が放った快作、Put Your Records On はすごい勢いでヒットした。しかし日本で名前を知ってる人は少ないだろう。ヒットが局地的だったのだ。
当時起きていたのがカフェブームである。今でこそスタバだブルーボトルコーヒーだと乱立してカフェで優雅な昼下がりなんてのは一般的だが、当時はようやくその流れに火が付いてきたかというくらいだった。
店としてはおしゃれでリラックスできる、ゆったりとした曲が流したい。だからと言ってボサノバをかけるのも時代錯誤感がある。最近の流行りを打ち出しながらもポップで良い雰囲気を演出できる、そんな曲は無いだろうか。と思っていた所でデビューしたのがこの人、Corinne Bailey Rae だった。
素朴で上手すぎない、だけど人を惹きつける優しい歌声。癒やしだ。ヒーリング効果バツグン。それに寄り添うポップで優しい演奏。アコースティック感の溢れる Put Your Records On は当時のカフェの需要と完全にマッチした。以来この曲は巷の小奇麗なカフェで必ず流れる一曲になった。10年たってるけど今も普通に流れてる。ちなみに、一緒に出てきたのがJason Mrazあたりだ。もはや聴いてるとコーヒーが飲みたくなる。
このヒットで見事にグラミーにもノミネートされた。受賞には至らなかったが。もう売れっ子まっしぐらだ。
しかし彼女の快進撃はここで止まった。残念なことに。
 


Corinne Bailey Rae - Been To The Moon (Official Video)

 

プライベートの転落、そして復帰

当時結婚していた夫と死別したのだ。
そりゃあ優しい声で歌うのも無理がある。 ポップに自転車乗って笑ってる場合ではない。癒やしを提供していた彼女を癒やす人がいなくなってしまった。
傷心で発表した2ndはそれはもう暗い作品になった。誤解しないで欲しいのだが作品としての深みは増している。個人的にはむしろ好きだ。
しかし、元々がカフェの女王である。彼女の2ndは商業的に成功したとは言えない作品となった。
そんな2ndから6年。彼女の待望の新作が今作である。
 
まず、暗過ぎる曲は減った。ちなみに再婚したらしい。他人事だが嬉しい。
そして今っぽい。かなり今っぽい。電子音がふんだんに使われている。ボーカルエフェクトも増し増し。素朴な癒しのアコースティックサウンドを求めているのであれば、残念ながら期待には添えないだろう。
しかし、アレンジが多過ぎて声の良さが削れるということはない。間違いなく華やかにはなっているが上手く隙間を作って声が活きるようにしている。アコースティック一辺倒でなくなったためむしろバリエーションが増えているのも良い。
かつ、良いメンバーを使ったのだろう、演奏がかなり良い。ベースに Marcus MillerEsperanza SpaldingPino Palladino が参加している。もうベースを聴くために聴いても満足できる布陣だ。

 


Corinne Bailey Rae - The Skies Will Break (Official Visualizer)

 

進化を続ける歌姫

アコースティックな曲で売れた人はアコースティックなイメージが先行し、それしかできないジレンマに陥って行くことが多い。一時期のゆずとか。コブクロとか。
そのジレンマにハマらず、新たな形態を貪欲に取り入れる姿勢は素晴らしい。一発屋と呼ばれないための意地だろうか。
惜しむべくはまだ模索中感が否めないことだ。及第点を超えてはいるのだが、まだ伸びしろがあると思ってしまう。間違いなく良いのだが、名盤とまでは言い切れない。
しかし間違いなく彼女のこれからの作品は楽しみである。
貪欲に新しさを追求して我々を楽しませて欲しい。

 

ザ・ハート・スピークス・イン・ウィスパーズ

ザ・ハート・スピークス・イン・ウィスパーズ